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平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震

東北地方太平洋沖地震にともなう静的応力変化(第三報, 3/15):内陸地震・プレート境界地震活動への影響

今後の内陸地震活動を予測するために,影響を受ける断層の走向,傾斜,すべり角(すべりの向き)の地域性を考慮して応力変化の計算を行い,各地点でのクーロン応力変化の最大値をマッピングしました.また,新たに東海地震,関東地震の想定断層面への影響も検討しました.(地震予知研究センター 遠田)

図1:深さ12.5 kmにおける6地域でのクーロン応力変化.A:北海道・東北・信越地域の逆断層,B:中部地域の横ずれ断層,C:西関東〜房総の斜めずれ断層,D:東海地域の逆断層,E:伊豆半島〜伊豆諸島の横ずれ断層,F:太平洋プレート内の正断層.それぞれの地域で不確定性を考慮して複数パターンを計算し,最大値を表示.緑線は活断層分布(活断層研究会,1991),灰色線は地域区分境界を示す.

図2:東海地震,関東地震の想定断層面に解いたクーロン応力変化.断層面の走向・傾斜・レイクについて,関東地震はMatsu'ura & Iwasaki (1983),東海震源域はIshibashi (1981)を参考にした.相模トラフ沿いには0.1bar程度応力減少.駿河トラフ沿いでは逆に最大0.1bar増加となる.なお,今回の震源断層南延長部の房総沖のプレート境界についても参考のため計算した.ただし,この地域のプレート構造と固着特性(地震発生特性)はまだよくわかっていない.

以上の計算結果は暫定的です.今後さらに詳細な解析により応力分布や値が変わる可能性があります.ご注意ください.

東北地方太平洋沖地震にともなう静的応力変化:内陸地震活動への影響(第二報, 3/13)

八木先生の震源モデルの更新(ver.2)にともない,応力変化の計算結果を更新しました.また,影響を受ける断層の走向,傾斜に関してばらつきを考慮した計算を行い,応力変化の最大値をマッピングしました.(地震予知研究センター 遠田)

図1:北海道〜関東地域に分布する逆断層については,南東北(宮城県,山形県,福島県)で応力減少,北東北(岩手県北部,青森県,秋田県)と栃木県周辺で1bar(0.1MPa)以上増加していることが予想されます.

図2:中部地方〜近畿地方に分布する横ずれ断層には,計算上0.1〜0.7バール程度応力が加わります.大気圧以下ですが,既存の研究結果を参考にすると,地震活動を活発化させるのに充分な変化量といえます.

なお,以上の計算結果は暫定的です.今後,震源断層モデルの更新や大規模な余震の影響も加え,さらに詳細な解析を実施する予定です.これにより,応力分布や値が変わる可能性があります.ご注意ください.


東北地方太平洋沖地震にともなう静的応力変化:内陸地震活動への影響(第一報, 3/13)

(地震予知研究センター 遠田)

大地震が起きると,その周辺地域の力のかかり方(応力)が突然に変化する.地震を起こした断層(震源断層)での応力は解放されるが,周辺域には応力が伝播し,地震が起こりやすくなる地域が生じる.地震のマグニチュード(M)が大きくなるほど,その影響範囲は拡がる.今回のM9.0の地震では,影響は東北地方のみならず,北海道や関東,中部地域まで及び,今後広域にわたって地震活動が変化することが予想される.東北地方では,過去に1896年6月15日に発生した明治三陸津波地震(M8.5)の約2ヶ月後の8月31日に秋田・岩手県境付近を震源とする陸羽地震(M7.2)が発生した例があり,海溝型地震による内陸地震活動への影響が懸念される.

ここでは,筑波大学八木先生の暫定震源断層モデル(2011,図1)を用いて,同地震によって周辺の地殻内に分布する断層への応力変化(クーロン応力,ΔCFF)を計算した.計算深度は平均的な内陸地殻内大地震の発生深度である12.5 kmに設定した.日本列島には多様な断層が存在し複雑な分布を示すため,地域ごとの断層特性を考慮した計算結果を図2〜5に示した.理論的には,ΔCFFが正の地域(暖色系)では断層活動が促進され,ΔCFFが負の地域(寒色系)では断層活動が抑制される.これまでの研究で,ΔCFFが+0.1bar以上で地震活動が有意に活発化するといわれている.

図1 筑波大学八木勇治准教授による震源断層モデル(ver.1)と内陸活断層の分布(活断層研究会,1991).

東北地方内陸に分布する南北走向の逆断層にかかるΔCFFは,今回の巨大地震によって全域で顕著に減少する(図2),ただし,津軽半島周辺には最大0.5 bar程度の増加が見込まれる.北海道日高地域の逆断層帯でも若干の応力増加となる.北上山地では,ΔCFFがきわめて大きくなるが,同地域には主要な南北走向の逆断層は知られていない.一方,M8.9震源域の南側の房総半島東沖のプレート境界では顕著な応力増加となる.しかし,この地域の地震発生様式は明確ではない(1677年の津波地震の震源という見方もある).  一方で,新潟県中越地震や中越沖地震が発生した信越活褶曲帯では,逆断層の走向が北東ー南西となる.これらの逆断層にかかるΔCFFを図3に示す.概ねΔCFFが負もしくはごくわずかに正となる.

図2 東北地方および南北海道に分布する南北走向逆断層へのクーロン応力変化.なお,灰色に着色した地域は異なったタイプの断層が分布するので,計算値を隠している.

図3 信越地域に卓越する北東走向の逆断層にかかるクーロン応力変化.

跡津川断層など,北東ー南西走向の右横ずれ断層へのΔCFFは顕著な減少となる(図4).逆に,糸静線断層帯南部や阿寺断層帯などの北西−南東走向の左横ずれ断層ではわずかにΔCFFが正となる(図5),

図4 中部地方の北東走向の右横ずれ断層にかかるクーロン応力変化.

図5 中部地方の北西走向の左横ずれ断層にかかるクーロン応力変化.

なお,以上の計算結果は暫定的なものであり,今後八木先生のモデルの更新や,余震によるΔCFFを加えるなど,さらに詳細な解析によって,応力分布や値が変わる可能性がある.逐次更新していく予定である.