京滋地震情報

(おことわり)以下の文章および図は、京都新聞に連載されているものを転載したものです。

(この連載に関するお問い合わせ)地震に関する疑問や質問を電子メールでお寄せ下さい。アドレスはkagakubu@mb.kyoto-np.co.jpです。

2001年4月

(「京都新聞 2001年(平成13年)5月17日 木曜日」に掲載)

2001年4月の震央分布図

丹波山地に微小地震

 昨年10月6日の鳥取県西部地震、今年1月の兵庫県北部温泉町付近での群発地震、そして3月24日の芸予地震。このところ西日本では被害を伴う地震が立て続けにおきています。京都市周辺を見ても、昨年の1月から8月にかけて頻繁に有感地震が起きました。その多くは京都市左京区の修学院付近を通る花折断層で起きました。

 ちょうどその頃、複数の方の「地震情報を伝えてほしい」という要望が新聞に掲載されました。そこで京都大防災研究所地震予知研究センターは、京都新聞社と共同で「京滋地震情報」を月1回掲載する事にしました。

 この欄では1カ月間の京滋周辺の地震概況を解説すると共に、地震の起こるメカニズムや活断層など地震の基礎知識も解説します。京滋にとどまらず、全国や世界各地の地震に関連したできごとも紹介したいと思います。

 1回目は掲載している図の見方を解説しておきます。地図の上に描いてある○印ひとつが一回の地震で、地震の大きさは○の大きさに比例しています。このような図を震央(しんおう)分布図と呼んでいます。

 この地図の中に書き込まれた地震は342回で、ほとんどが微小地震と呼ばれる身体に感じない小さな地震です。丹波山地にこのような地震が多いことがわかります。また、同じところで何回も地震が起きると、黒く塗りつぶされています。福井県と滋賀県の県境付近が黒くなっているのは、4月16日に起きたマグニチュード(M)4.4の地震とその余震です。

(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター長)

2001年5月

(「京都新聞 2001年(平成13年)6月21日 木曜日」に掲載)

2001年5月の震央分布図

花折断層は安心か

 花折断層 地震の危険「当面低い」−という見出しの記事が、5月22日の京都新聞に掲載されました。安心された方も多いと思いますが、どれくらい安心していいのか、地震の専門家としての見解を述べます。

 産業技術総合研究所(つくば市)が花折断層の南端にあたる京都市左京区の修学院と今出川の2カ所で断層を掘り起こし、過去に起こった地震の履歴を調べました。前回の地震は、おおよそ2000年前、そのもう一つ前は8000年ほど前だったとわかりました。2回の地震の間隔は6000年ですから、次の地震もその間隔で起きると仮定しますと、次は4000年ほど先という計算になります。これが「地震の危険性は当面低い」という表現になったようです。

 しかし、専門家はこのような単純な計算結果で安心していません。地震を引き起こす断層の活動はそんなに単純ではないからです。

 今回の一連の調査で、全長45キロメートルの花折断層は北半分と南半分が別々に地震を引き起こしたことが分かりました。1662(寛文2)年の地震は断層の北半分で起きたのですが、それでも京都市内で200人以上の方が亡くなっています。少しの安心材料を得たからといって備えを怠ってはいけないのです。

 5月の京都、滋賀での地震活動は比較的静かでした。それでも地震計で観測された地震数は232回もあります。私たちの住む大地は生きています。

(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター長)

2001年6月

(「京都新聞 2001年(平成13年)7月19日 木曜日」に掲載)

2001年6月の震央分布図

花折断層の微小地震

 身体に感じないような小さな地震を微小地震と呼びますが、正確には「地震の大きさをあらわすマグニチュード(M)が1以上、3以下の地震」のことです。地図に描かれた6月の地震は322回で、すべて微小地震でした。そんなに多くないようですが、同じところで何回も地震が起きている所がいくつかあります。

 例えば京都市の北東部、地図では京都の「都」という文字のすぐ上(北)にかたまって地震が起きました。左京区一乗寺付近で、滋賀県境に近い場所です。まず6月2日の午後5時55分、M2.6の地震が起きました。続いて、翌日の午前9時までに8回の地震がほぼ同じ所で起き、その後も6月15日までに合計13回の微小地震が起きました。地震の起こった深さはいずれも地下13キロメートルくらいで、花折断層に関連した活動でした。

 この付近の花折断層は、地表近くでは修学院離宮から詩仙堂付近を通っています。この断層はまっすぐ垂直に立っていないで、東山の方に向かって深くなっていき、府県境あたりで、ちょうど今回地震の起きた深さになります。この付近では昨年1月から8月にかけても頻繁に地震活動があり、このコラムを始めるきっかけになりました。

 今月8日の午前9時27分に、京都市、亀岡市、向日市などで身体に感じる地震がありました。向日市の西のポンポン山付近で起きたM3.3の地震でした。

(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター長)

2001年7月

(「京都新聞 2001年(平成13年)8月16日 木曜日」に掲載)

2001年7月の震央分布図

琵琶湖で津波は起こるか

 滋賀県志賀町の読者の方から「琵琶湖でも津波が発生するのか」「起こるとしたら、メカニズムや被害は?」という質問をいただきました。

 歴史上、琵琶湖で津波が発生した記録はありませんが、津波が発生する原因は二つ考えられます。一つは、琵琶湖の湖底で大地震が起きた場合で、発生メカニズムは海で起きる津波と同じです。地震によって湖底が上下に食い違うことで、湖水も上下に変化します。それが湖岸に押し寄せてくるのが湖の津波です。ただ琵琶湖は海に比べてスケールが小さいので、この種の津波が発生しても被害が出るほど大きくはなりません。

 二つめは、大規模な山崩れが発生し、多量の土砂が一挙に琵琶湖に流れ込んで起きる津波です。琵琶湖での記録はありませんが、1792年に雲仙岳で起きた地震で山が崩壊し、その土砂が島原湾に流れ込んだため、最大で9mにも達する津波が発生しました。

 津波ではありませんが、地震による地殻変動で、湖岸の低いところが水没することがあります。1662(寛文二)年に花折断層が活動する大地震が起こりましたが、志賀・唐崎両郡で田畑85町(約84ヘクタール)が湖底になったという記録があります。これは地震による地殻変動で湖西一帯が沈降したためと考えられています。

7月の地震回数は314回で、兵庫県猪名川町付近の地震活動が目立ちました。

(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター長)

2001年8月

(「京都新聞 2001年(平成13年)9月20日 木曜日」に掲載)

2001年8月の震央分布図

三峠断層帯のクローズアップ

三峠断層でM5.1の地震

 先月25日の夜10時21分頃、京都市や亀岡市、大津市などで震度4を記録する地震がありました。地震の大きさをあらわすマグニチュードは5.1(修正値)、震源は京都市と京北町の境界付近で深さ10kmでした。この付近は従来から小さな地震の多い所で、1994年6月にもほとんど同じところで、マグニチュード4.6の地震があり、京都市で震度4を記録しています。

 下の図に示しましたように、綾部市ー和知町ー京北町にかけて三峠(みとけ)断層帯があります。断層は一本ではなく、いくつもの断層が連なっていますので「断層の帯」と言う意味で何々断層帯と言います。今回の地震は三峠断層帯の南東の端で起きました。

 上の震央分布図には震源の決まった8月中の地震を、いつものようにすべて書き込みました。京北町付近は300回以上の余震が起きたため、真っ黒になっています。一方、断層を入れた下の図では、本震から24時間以内に起きたマグニチュード1.5以上の地震だけを書き込んであります。

 さて、三峠断層帯の和知町では1968年2月にマグニチュード4.8の地震があり、その後しばらくおさまっていたのですが、約半年後の8月18日にマグニチュード5.6の地震が起こりました。過去にこういう例もありますので、少なくとも今後半年ないし1年はこの断層帯の地震活動に注意する必要があります。8月はこの地震のため、地震回数が516回にもなりました。そのうち京北町の地震の余震は328回でした。

(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター長)

2001年9月

(「京都新聞 2001年(平成13年)10月18日 木曜日」に掲載)

2001年9月の震央分布図

南海地震の発生確率40パーセント

 今後30年以内に南海地震が発生する確率は40%程度だということが政府の地震調査委員会から発表されました。1995年の兵庫県南部地震の発生確率は地震の前には最大で8%だったことを考えると、この数字はけっして低いものではありません。

 南海地震はフィリピン海プレートが日本列島の下に沈み込むことによって起きる巨大地震です。90年から150年の間隔で繰り返し発生する事が知られています。前回の南海地震(1946年)はマグニチュード(M)8.1で京都府や滋賀県の震度は3−4でした。

 次の南海地震はひとまわり大きく、マグニチュード8.4と予想されていますので、京都・滋賀での震度は4−5になるでしょう。兵庫県南部地震の震度は京滋の南部で5、北部で4でしたから、震度は同じくらいですが、揺れ方はまったく違います。近くで起きた地震の場合は、最初にドーンと下から突き上げるような振動があって、それからユサユサと横に揺れることが多いのですが、南海地震は遠くで起き、かつ巨大な地震ですから周期の長いゆれが長い間続きます。高い建物の揺れはさらに大きくなります。

 さて、最初に述べた「南海地震の発生確率が40%」ということは今後30年間は地震が起きないことを意味するのではありません。備えあれば憂いなしとも言います。あらゆる意味での備えが必要です。

 9月の地震回数は717回でした。この内300回余りは8月25日に京北町で起きた地震の余震でした。

(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター長)

2001年10月

(「京都新聞 2001年(平成13年)11月15日 木曜日」に掲載)

2001年10月の震央分布図

湖西の活断層

 滋賀県北西部から京都市に至る有名な花折断層の他に、琵琶湖の西岸には堅田断層、比良断層、饗庭野断層があります。これらを総称して琵琶湖西岸断層帯、又は断層系と呼んでいます。今から340年ほど前の1662年(寛文2年)に湖西を中心にマグニチュード7.5の大地震があり、京滋合わせて800人以上の人が亡くなりました。昔のことですから、この地震が琵琶湖西岸の断層で起きたのか、それより西の花折断層で起きたのか、詳しいことはわかりませんでした。

 そこで、地質調査所(現在の産業技術総合研究所)が中心となって平成7年から断層の発掘調査を行いました。調査の方法はトレンチ調査と呼ばれているもので、断層を掘り返して昔の地震の傷跡を見つけ、地震の起こった年代やずれの大きさを測定するのです。

 これまでの調査で1662年寛文の地震は花折断層の北半分が活動したこと、一方、琵琶湖西岸断層帯では、ここ2000年以上もの間、地震が起きていないことがわかりました。そこで心配になるのが、次の地震はいつ起こるかということです。残念ながら現在の地震学では何時という決定論的な地震予知はできませんが、政府の地震調査委員会では、それぞれの断層がどの程度危険かということを「地震発生確率」で発表する準備を進めています。

 10月の地震数も9月に続いて多く615回でした。このなかには8月25日に京北町で起きたマグニチュード5.1の地震の余震が88回含まれています。

(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター長)

2001年11月

(「京都新聞 2001年(平成13年)12月20日 木曜日」に掲載)

2001年11月の震央分布図

想定南海地震による揺れ

 南海地震が近づいて来ますと、西日本の内陸部でも地震活動が活発になり、被害地震が発生するようになります。1995年の兵庫県南部地震や昨年の鳥取県西部地震は、そのはじまりだというのが地震学者の共通した認識です。

 政府の調査委員会でも調査をすすめ、9月には南海地震の発生確率が発表されました。今後30年以内に南海地震が発生する確率は40%だということはこのコラムでも紹介しましたが、40年以内なら60%、50年以内なら80%と加速度的に高まります。想定される地震の大きさはマグニチュード(M)8.4、地震によってできる断層は、紀伊半島の潮岬沖から四国の足摺岬沖まで東西300キロメートルにおよびます。兵庫県南部地震(M7.3)の断層の長さは40キロメートル余りでしたから、長さにして7倍強、エネルギーの比は45倍にもなります。

 京滋は震源からかなり離れていますので壊滅的な被害は免れると思いますが、今月の7日に発表された震度予測によれば、大津市と彦根市で震度5弱−5強です。震度5強ですと、多くの人が行動に支障をきたし、耐震性の低い家屋はかなり破損すると予想されます。京都市は震度4ですが地盤の良くない所では大津市や彦根市と同じ震度になるでしょう。

 11月の地震数は570回でした。京北町および福井県との県境付近に地震がかたまって見えますが、京北町の地震は8月25日の地震(M5.1)の余震と見られ、11月中に70回ありました。県境付近の地震は35回でした。

(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター長)

2002年12月

(「京都新聞 2002年(平成13年)1月17日 木曜日」に掲載)

兵庫県南部地震、あれから7年

 7年前の今日、午前5時46分52秒、明石海峡の直下14キロメートルという地下深いところで岩盤に割れ目が入りました。兵庫県南部地震の始まりです。割れ目は地上に向かって急速に伝わっていき、3秒後には野島断層を大きく破壊しました。ほぼ同時に、神戸市直下に向かって毎秒3キロメートルというジェット機の10倍もの猛スピードで進行していき、5時47分3秒ごろ、西宮市付近で止りました。この間わずか10秒ほどの出来事が兵庫県南部地震の実態です。

 しかし、それが6400余名の命を奪い、甚大な被害をもたらした阪神・淡路大震災を引き起こしたのです。この事実を忘れないため、そして地震に対する備えを怠らないためにも、このコーナーを続けていきたいと思っています。

 暮れの28日には滋賀県と福井県の県境付近でマグニチュード4.5の地震がありました。ここでは昨年の4月にマグニチュード4.4の地震が起きて以来、断続的に小さな地震が続いています。正月早々の4日には京都市の北、鞍馬山の直下でマグニチュード3.8の地震がありました。

 同じ4日には和歌山県の龍神村温泉の近くでマグニチュード4.1を含む8回の有感地震がありました。ここでも昨年の5月下旬から活発な地震活動が続いており、今後もしばらくはこの活動が続くと見られます。

 先月のこのコーナーで兵庫県南部地震のマグニチュードを7.4と書きましたが、正しい数値は7.3でした。訂正いたします。

(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター長)


Status: 2002/01/21 更新