(おことわり)以下の文章および図は、京都新聞に連載されているものを転載したものです。
(この連載に関するお問い合わせ)地震に関する疑問や質問を電子メールでお寄せ下さい。アドレスはkagakubu@mb.kyoto-np.co.jpです。
(「京都新聞 2005年(平成17年)2月17日 木曜日」に掲載)
京都府内の5つの活断層(帯)の長期評価が,昨年12月に続き今月9日,政府の地震調査委員会から発表されました。今後30年以内にマグニチュード7.2〜7.5の地震が発生する確率は,京都・西山断層帯で0.8%,三峠断層で0.6%でした。
郷村断層では1927年にマグニチュード7.3の北丹後地震が起きていますので,0%でした。山田断層帯と上林川断層はいずれもデータ不足で評価できませんでした。
京都・西山断層帯は北西から順に「殿田・神吉・越畑・亀岡・樫原・西山・灰方・円明寺」という8つの断層で構成されています。
評価の対象となったのは,これらの断層が同時に活動した場合の,マグニチュード7.5の地震です。
しかし一方,それぞれの断層が独立に活動して,マグニチュード6.5±0.5程度の地震が起きる可能性は否定できません。おそらく,その発生確率は一桁高い数値になるでしょう。
歴史上,京都では平均100年に一度この程度の被害地震が発生しており,1830年には280人の死者を出したマグニチュード6.5の地震が起きています。
(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター長)
(「京都新聞 2005年(平成17年)3月17日 木曜日」に掲載)
丹波高地の微小地震活動は,この30年間を見てみますと,数年ごとに活動期と静穏期を繰り返しています.
活動期にはマグニチュード5クラスの地震が起きることがありますが,今は静穏期で2003年の初め頃から地震の少ない状態が続いています.
なぜこのような変化が起こるのでしょうか.その原因に定説はありませんが,研究者の多くは“水”が関与していると考えています.
水といいましても,地下20〜30kmの深さで,温度はセ氏300〜500度,圧力も500から800メガパスカルですので,日常私たちが目にする水とは様相が違います.非常に溶解度が高く,周りの岩石さえもその一部を溶かし込んでいますので,高温高圧流体と呼ぶべき状態になっています.
こういう圧力の高い流体が岩盤の小さな割れ目に入り込みますと,岩盤が滑りやすくなって地震が起こることは以前に解説したとおりです.
地震が起こりやすくなるこの状態が,地震の活動期に相当すると考えますと,説明には好都合なのですが,そのような水が地球の深部からどのように供給されるのか.長年研究者が頭をかかえてきた大きな問題です.
(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター長)
(「京都新聞 2005年(平成17年)4月21日 木曜日」に掲載)
先月20日の福岡県西方沖の地震では玄海島などで大きな被害が発生ました.
今回の震源域では有史以来,被害地震の記録はなく,活断層も確認されていませんでした.政府の地震調査委員会が発表した「地震動予測地図」でも,今後30年以内に震度6弱に見舞われる確率は0.1%未満という数値の小さい地域になっていました.
にもかかわらず,このような大きな地震が起こったことで,私たちはもう一度日本列島の地震活動の現状を見直す必要があります.
日本の古い地震記録は1500年以上もさかのぼることができますが,それでも数千年という活断層の活動間隔には及びません.歴史記録に無くても,その地域で大地震が起きていたかも知れないのです.
また活断層と認められるには,地震でできた断層が数千年間,その痕跡を残していることが条件です.
このような事情を考えますと,歴史上被害地震が無い,あるいは活断層が確認できないからと言って決して安心できないということです.
変動帯にある日本列島では,どこで地震が起きても不思議ではありません.ふだんの備えをすることが肝要です.
(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター長)
(「京都新聞 2005年(平成17年)5月19日 木曜日」に掲載)
スマトラ沖では,昨年12月のマグニチュード9.0の地震に続いて,3月にもすぐ南隣でマグニチュード8.7の巨大地震が発生しました.いずれもプレート境界で起きた巨大地震ですが,プレート境界では,地震が境界を埋め尽くすように次々と起きていくことがあります.
スマトラ沖でも1800年代にいくつもの巨大地震が発生し,プレート境界を埋め尽くしたことが知られています.
今世紀に入って,2000年のマグニチュード8.0の地震を皮切りに,すでに3回の巨大地震が起きています.ところが,この3回の地震に挟まれるように,地震の起きていない領域があります.最近起きた地震は北から順位に,昨年暮れの地震,すぐ南で起きた3月の地震,1領域飛ばして,その南で起きた2000年の地震です.
このひとつ飛ばしの領域では1833年にマグニチュード8.7の地震が起きて以来,170年あまり地震が起きていません.こういう領域を「地震空白域」と呼んでいます.巨大地震を引き起こす能力を持った領域ですので,研究者は注意を呼びかけています.
京滋の地震は,目だった活動はありませんでしたが,地震数は先月より少し増え,312回でした.
(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター教授)
(「京都新聞 2005年(平成17年)6月19日 木曜日」に掲載)
梅雨が明けますと海辺に出かける機会が増えます。スマトラ沖の大津波の惨状は記憶に新しいところですが、海辺では津波に対する注意が必要です。
津波を起こす地震のほとんどはプレート境界の大地震です。日本のプレート境界は太平洋側だけだと思われがちですが、日本海側にもプレート境界があります。1983年日本海中部地震や、1993年北海道南西沖地震など、日本海側のプレート境界で津波を伴なった地震が起きています。
海辺で揺れを感じたら、すぐに高いところへ避難しなければいけません。とっさの場合にも対処できるよう、予め非難場所や逃げ道を決めておく必要があります。
揺れを感じないような遠い地震でも津波が襲ってくることがあります。気象庁は、津波のおそれのある地震が発生した場合は3分以内に津波情報を出します。海辺では携帯ラジオの持参など、地震や津波情報を得る方法も考えておきましょう。
京滋の5月の地震活動は353回と、3ヶ月連続して微増しています。この調子で小さい地震が少しずつ増え、地殻のストレスも徐々に開放されるのが望ましいのですが、予断は許されません。
(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター教授)
(「京都新聞 2005年(平成17年)7月21日 木曜日」に掲載)
津波は地震に伴う海底地殻変動によって引き起こされますが、地震が起こる前に海水が引いてしまった例があります。
今から約130年前の1872年(明治5年)に起きた「浜田地震(マグニチュード7.1)」のときです。地震が起こる5分から10分前に、海水が急に2mほど引きました。地震前の地殻変動によって海底が隆起したためです。
潮の満ち引きは月や太陽の引力によって、日に2回繰り返されます。この規則的な潮位変化とは著しく違った潮の変化があると、漁師さんたちは「潮が狂う」などと言うそうです。南海地震の前にも紀伊半島から四国の太平洋沿岸で、この「潮が狂う」現象が見られたそうです。海岸で海水の異常な変化があれば、地震の前ぶれかもしれません。警戒が必要です。
京滋の地震回数は3月以降微増していましたが、6月には291回と、また減ってしまいました。地震活動だけでなく、地殻のひずみや地下水にもわずかながら異常が現れています。
異常があっても大きな地震に至らず、緩やかに異常が終息するケースが多いのですが、異常が続いている間は注意が必要です。
(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター教授)
(「京都新聞 2005年(平成17年)8月18日 木曜日」に掲載)
圧力の高い水が岩盤の隙間に入り込むと地震を引き起こしやすくなること、その水が丹波山地の地震活動の活発化・静穏化もコントロールしているらしいことを、以前このコラムで書きました。
しかし地震が起こっている20kmよりも深いところに果たして水が存在するのか?これが大きな疑問だったのです。
この疑問を解決するため、昨年私たちは紀伊半島南端から若狭湾にかけて、2000台以上の地震計を設置し、大規模な地下構造探査を行いました。
その結果、丹波山地の直下60kmくらいの深さのところに地震波を跳ね返す層があることがわかりました。私たちは、この層をフィリピン海プレートの一部分と見ています。
プレートは元々水やガスを含んでいますので、60km付近まで沈み込むと、水やガスが熱せられて膨張し、上昇し始めると考えられています。どうやらこの水が丹波山地の小さな地震の引き金になっているらしいのです。
7月の地震回数は332回と前月より増えましたが、そのうち40回余りは、7月3日に姫路市で起きたマグニチュード3.4の地震とその余震でした。丹波山地の地震数は増えていません。
(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター教授)
(「京都新聞 2005年(平成17年)9月15日 木曜日」に掲載)
8月16日宮城県沖でマグニチュード7.2の地震が発生しました。この地域では過去にもマグニチュード7.5程度の地震が繰り返し起きていますので、政府の地震調査委員会は今年3月に「今後30年以内にマグニチュード7.5の地震が発生する確率は99%」と発表していました。
16日の地震が起きたとき多くの専門家は、想定されていた宮城県沖地震だと考えました。確かに震源や地震のメカニズムは想定地震と同じでしたが、大きさはかなり小さい地震でした。想定地震と実際に起きた地震のマグニチュードの差は0.3ですが、エネルギーで比べますと今回の地震は想定宮城県沖地震の3分の1程度しかありません。地震で破壊された破壊面(断層面)を比べてみても、およそ3分の1程度です。
こうなると、今回の地震を想定宮城県沖地震だと言えるのか、言えないのか、判断に苦しみます。調査委員会では議論の末、まだ破壊されずに残っている領域のほうが大きいことを重視し、16日の地震は想定宮城県沖地震ではないと判断しました。残る3分の2が破壊しますとマグニチュード7.4の地震になります。その発生確率は依然99%です。
(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター教授)
(「京都新聞 2005年(平成17年)10月20日 木曜日」に掲載)
パキスタン北東部で10月8日マグニチュード7.7の地震が発生し、犠牲者4万人を超す甚大な被害が出ています。この地域は北側のユーラシアプレートと南側のインド・オーストラリアプレートがぶつかり合う境界にあたるため、大きな被害を伴う地震が多いところです。
地震波形を解析した結果、今回の地震は地下10kmのところから破壊が始まり、北東側と南西側の両方に向かって破壊が拡大していったことがわかりました。およそ30秒かけて長さ80km幅15kmの断層が形成されました。
特に南東側の浅いところでの断層のずれが大きかったため、その直上のムサファラバードでは大きな被害が出ています。
断層の南東端はインドとの境界付近に達しており、破壊の進行方向に当たったインドのウリでも大きな被害が発生しています。
被害の大きさは建物の耐震性や地盤にもよりますが、このように地震の破壊過程(断層の形成過程)にも大きく関係していることがわかってきました。
京滋の地震回数は7,8月と微増傾向にありましたが、9月は296回とまた減りました。
(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター教授)
(「京都新聞 2005年(平成17年)11月21日 月曜日」に掲載)
震が発生しますと、直ちに各地の震度が気象庁から発表されます。震度はもともと人間が感じる揺れの大きさのことですから、かつては各気象台の職員が感じた震度を発表していました。
気象台はひとつの府県に数ヶ所しかありませんから、被害地震が発生しても最寄りの気象台までの距離があると、小さめの震度しか発表されず、災害対策に遅れをとることがありました。
これを改善するため、気象庁は人間が感じるのと同等の揺れを計測できる「震度計」を開発し、現在全国の3800地点にそれを配置しています。各地の震度分布がたちどころにコンピュータ画面に表示され、災害対策にも活用されるようになりました。
今月11日午後4時40分頃、京都美山町の北東部、滋賀県境に近いところでマグニチュード3.4の地震がありました(図中の赤丸)。震源は京都府だったにも関らず滋賀県下で多くの震度情報が発表されたのは、滋賀県側に震度計が多く配置され、逆に震源に近い京都府側は山間部のため配置が少なかったからです。
10月の京滋の地震数は301回でした。今月11日の地震には余震もなく、京滋全体の地震活動は現在も低調です。
(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター教授)
(「京都新聞 2005年(平成17年)12月15日 木曜日」に掲載)
建物の耐震強度を偽装したため、震度5強の揺れでも倒壊する恐れのあるマンションなどが大きな社会問題になっています。偽装は論外としても建物は年数とともに劣化し、耐震性は低くなります。そのため多くの自治体では、いま住んでいる家屋の耐震診断を受けるよう勧めています。
ときどき起こる有感地震による揺れを観察していても自分の住まいが揺れやすいかどうかをチェックできます。例えば、ある地震で自宅付近の震度が3と発表されたのに、家の棚の食器がガタガタ大きな音を立てたり、すわりの悪い置物が倒れるようでしたら、震度4に近い揺れと言えましょう。何らかの理由で揺れを大きくしている可能性があります。
先月11日の地震による揺れはいかがでしたか。昨年9月5日に起きた紀伊半島南東沖の地震(M7.4)による京滋の揺れは震度2〜4でした。各地の震度は気象庁のホームページで公開されています。こうした地震での経験をきっかけに、住まいの耐震性を高める意識を持ちたいものです。
京滋の地震数は333回と先月に比べ、増えてはいますが長期的には横ばい状態です。
(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター教授)
(「京都新聞 2006年(平成18年)1月19日 木曜日」に掲載)
CTスキャンと言えば医療の分野ではよく知られている診断方法ですが、地球の内部を調べるのにも早くからこの手法が用いられています。
医療の場合は超音波やX線が使われますが、地球の場合は地震の波を使います。地球内部で反射あるいは透過してくる波を地震計でとらえ、コンピュータで処理した断層画像、つまりコンピュータ・トモグラフィー(CT)を作り、地球内部を調べています。
地球はコア(中心核)やマントルから構成されていることは以前からわかっていましたが、最近の地球のCTを見ますと、太平洋の下では地球の中心部からキノコ雲のようなものが湧き上がっているのが見えます。またユーラシア大陸の下にはプレートの残骸のような物体が横たわっているのも見えています。
8月に紹介した「丹波山地の直下の水の起源」を調べるための観測も大規模なCTスキャンの一種でした。丹波山地の小さな地震を引き起こす原因と見られる流体の存在も地球のCTスキャンで突き止める事ができました。
このコラムの過去の掲載分は地震予知研究センターのホームページでご覧いただけます。 http://www.rcep.dpri.kyoto-u.ac.jp/で[Japanese]→[Outreach]をご覧ください。
(梅田康弘・京都大防災研究所地震予知研究センター教授)